夏目漱石が草枕の冒頭でいっている。
「智に働けば角がたつ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくこの世は生きにくい」
先週、激しいホームシックが私を襲い、しばらく心にシャッターをおろして家族以外と話さなかった。
それは、紛れもなく自己防衛だった。
「そんなこと言ってたら、いつまでたってもイタリアに馴染めないよ」
「イタリアで生きていくんだったら、日本の家族と離れるのは仕方ないこと」
「誰でも淋しくなる。あなただけじゃない」
「FORZA(がんばれ)!FORZA!FORZA!」
・・・
どの言葉も励ましの言葉。
有難く受け取らなくてはならない。
わかっている、わかっているけどどうしようもないの。
イタリアに来た当時は必至で周りに溶け込もうとした。
来るもの拒まず、去る者追わず...だけど、もう力尽きた。
お願いだから放っておいてほしい。
昨夜、今日から日本旅行に出発する友人に扇子を渡すためにBARに出向いた。
そこで叔母さんに会った。
私は、最近、彼女が家に来た時は部屋から出ないようになった。
久しぶりに会った彼女は私の腕をつかまえて耳元でささやく。
「淋しいのはあなただけじゃない、部屋から出なさい。FORZA!FORZA!」
「Grazie、時間が経てば解消するから」というと話は続けられる。
「私の主人は癌でいずれ死ぬ。それでも私はがんばっている。あなたもがんばれ」
「・・・」
彼女は精一杯私を励ましてくれている。
彼女の夫が10年前から癌を患っていることは知っているし、何度も聞いている。
とても元気に見えるが、余命が少ないとも聞いている。
その言葉を聞くと何も言えなくなる。
余計に彼女とどう接すればいいのかわからない。
彼女に優しくなれない自分が苦しいし、だからと言って彼女を受け入れると自分が壊れてしまう。
日本でお世話になった先生の言葉を思い出す。
「自分が苦しくなるのなら、逃げなさい!とにかく逃げなさい!」
人との距離感ってとても難しい。
多くの人が嫁姑問題で悩むのはこの辺りだろう。
イタリアでは婿姑問題の方が深刻だ。
イタリアでの嫁姑問題は、言いたいことを言い合って、さっさと距離をとるからかもしれない。
婿は嫁のマンマ(姑)を大切に思い、言いたいことをいえず、我慢する構図なのだろうか。
イタリアでも日本でも人との距離感ってなかなか難しいものですね...
とかくこの世は生きにくい...
Grazie!!! Smile!!!